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超☆未期限



塩辛と渡世術 第五章 夕凪

人類の今日は多くの人々の血と絶え間ない科学の発展の下に存在する。
人々が争い、無数の血が流れたことを歴史と呼び、多くの利便性をもたらした発明と、一瞬でこの世界を無に返すほどの力を持つ兵器などの誕生を文明の進化というのならば、それを否定することはできない。
しかし同時に、それらの人類の歴史と進歩こそが、我々人類というものが、誕生した瞬間から何一つ変わっていない、ただ闇を恐れ、手に握った炎を闇雲に振っていたあのころから一歩も動けずにいる証明に他ならない。

もさ道は朝目覚めると、そんなことを考えながらぼーっとテレビに映る自分の行ったこともない土地で繰り広げられる悲劇を見ていた。
「朝からこんな悪趣味な映像を流すテレビ局の気が知れない」
彼はそう思うと、脇においてあるリモコンを手にとりチャンネルを変えようとした。

時刻は午前6時55分。

申し合わせたようにニュースの内容は変わり、先ほどまで深刻な口調で悲劇を伝えていたアナウンサーはまさに今日のような秋空にふさわしい笑顔で最近の若者の流行を伝え始めた。

彼女にとっては、彼岸で理不尽な殺戮におびえる人々と、今街でポンチョがOLたちを中心にはやっている。ということは同レベルなのかもしれない。

「売女よりたちが悪い!」一種の不快感を覚えてもさ道はリモコンをテレビに投げつけた。

そして同時になぜ自分がチャンネルを変えたりせず、持っていたリモコンを「ただ」テレビのモニターに投げつけたか気づき愕然とした。

そう、彼はそのコーナーの後に「今日の占い」というコーナーが始まるのを知っていた。
そしてそれは、彼が毎日欠かさずにチェックするコーナーでもあった。

つまり、自分が「売女よりたちが悪い」とののしった、テレビの向こうにいるアナウンサーと自分はまったく同じレベルだと彼は気づいたわけだ。

「結局人は、彼岸の火事より、今日の自分のラッキーカラーのほうがリアルなわけだ。彼女がポンチョに興味を持って何が悪い?偽善者は俺自身じゃないか!」

抑えきれない吐き気を飲み込むように冷え切ったコーヒーをのど元に流し込み、セブンスターに火をつけると、今度は、朝っぱらから自分が感じた苛立ちを紫煙と同時に吐き出した。

彼の苛立ちは、そういった自分の醜さに対してではなく、そういった感情を飲み込んでまで見た「今日の占い」の自分の順位が最下位だったからに他ならない。

「気分だけで言ったら、この占いはあながち間違ってはいないさ。しかし、、、、」

かれは先ほどテレビに投げつけたリモコンを拾うとチャンネルを変えた

「いまどき、今日の運命だって、リモコンひとつで変えることができる。それを間違いだって誰が言える?」

少し時間をずらして始まる他局の占いが流れるテレビ画面を見ながら彼はそうつぶやいた。

そして、その局で彼の星座は3位であるのを確認すると。かれは冷蔵庫に卵がまだ入っていることを思い出して、その場を離れた。

今日のラッキーカラーは黄色。冷蔵庫に眠っているはずのラッキーカラーで、もう一度今日をはじめなおそう。
彼の頭の中に、もう、彼岸の火事のことは少しだって残ってはいなかった。そして、そのことがこれからの彼の人生にどれくらいの影響を与えるか?など(少なくとも、冷蔵庫に卵が入っていれば)考えもしなかっただろう。

「平等な運命がこの世界にどれだけある?少なくとも、今卵を口にできないおれは、さっき見た飢えに苦しんでいる人々となんら代わらないって言うことじゃないか?」

空の冷蔵庫を眺めながら、彼はそうつぶやいた。
by sansetukon4 | 2004-10-23 18:42 | 塩辛と渡世術
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街は後いくつの戸惑い投げかけるの?

by sansetukon4
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